田崎さんちの牛/ちぇりこ。
 
が慣れてきたぼくの眼前
いや、見上げる視線の先に、牛
柔らかい泥土の丘がせりあがったような巨大な体躯
黒い大きな瞳は光を映さないガラス玉のようで
金属の輪が鼻を貫通している
ゆっくりと左右に振られる顔の先から
バスタオルをぎゅっ、と搾ったような大きな舌が器用に動いている
その舌先に、丁度ぼくの頭がある
はたして、ぼくの頭は
赤白帽子が変色する程、絡め取られるように舐め回され続けた
呆れたように笑う、お兄さんの声が遠くから聴こえてくる
頭の中でぐわんぐわん反響する
ぼくは、宇宙空間にただ一人
放り出された小さな芥なのだろう

「子牛おったら良かったのう、可愛いけぇね」
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