田崎さんちの牛/ちぇりこ。
 
かれ
ぼくは通学を促される
牛、牛というものが、ぼくの生活圏内に存在しているなんて
恐れより好奇心が勝ってしまったぼくは
放課後、近所の仲の良い上級生のお兄さんにせがんで牛を見にゆく
細長い通路を進んで田崎さんちの、玄関の前を通り過ぎる
突然開けた空間に古びた小屋が建っている
入口は開け放たれていて中は見えない
真空の闇が広がっているように見える
呆然と立ち竦むぼくを

「はよう来い」

お兄さんは小屋の入口で手招きをする
小屋に入ると
やはり真空の闇空間がぼくにまとわりついて
何も見えない
と同時に初めて嗅ぐ、怒涛の獣臭にぼくは圧倒される
徐々に暗闇にも眼が慣
[次のページ]
戻る   Point(8)