田崎さんちの牛/ちぇりこ。
ぼくの通う小学校の通学路沿いには
数件の農家がぽつぽつと建っていた
集落は、山々で挟まれており
ど真ん中を貫く小さな川の出口には
海が広がっている
山の麓の、あまり面積の広くない田畑に
寄り添うように建っている農家
その内の一軒は、田崎さんという家だった
毎朝の通学時、この春小学校の一年に上がったばかりのぼくは
いつも田崎さんちの前で竦んでいた
田崎さんちの玄関に続く細い通路の先から
毎朝、地の底から噴き出してくるような声
声と言うよりも質量の塊のようなその音に
ぼくは動けなくされていた
「田崎さんとこ、牛がおるけぇね」
口数の少ない最上級生の男子に手を引かれ
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