熟れた瓜ことばに固い貝ことば/ただのみきや
 

遠く近く脱ぎ捨てて自分へ





欲望の革袋

誘惑者は擬態した欲望を
その石の蛹から解き放つ
ひとつの行為の裂け目から
液化した意思が甘やかにほとばしる

羽化した心臓は
凍てつく光の中でふり返るが
透けた飴色の通念の向こうに
再び自分を納めることはできず

そうやってあふれ出した 刹那
欲望は己を形成する圧力を失い
虚無の重力に押しつぶされる
思考は蛞蝓のように鈍間になり

生の雑事に置き去りにされる
操り手のないパペットが
人の流れの歯車に引き回されて踊るよう
退行するも揺籃はエデンほど遠く





{引用=恋愛の尻
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