詩の日めくり 二〇一九年八月一日─三十一日/田中宏輔
 
が感情移入できるように場面を配し、状況をつくりあげていく力があるからなのだろうけれど、読み手にも、それを受け取れる能力が必要であろう。魂の二重性、あるいは多重性は、ぼく自身が長いあいだ追及していたモチーフだけれど、人間のこころがいかに複雑なものであるかを知るには、やはり現実の生活年齢がある程度は必要であると思われる。ぼくは、あまり頭の出来がよくなかったから、30歳を過ぎてからだった。10代、20代は、SFやミステリーばかり読んでいた。純文学を読み出したのは、20代の半ばで、純文学はそれ以降だった。しかし、それでよかったと思う。おもしろいのだから。高校のときに読んだことがあったが、人間のことをあまり
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