詩と体験/藤原 実
 
日」(抄)    W・H・オーデン

ぼくはただ、一つの声しか持っていない。
隠された嘘をあばく声だ。
平凡な官能的な人の
頭に巣くうロマンチックな嘘を、
手さぐりで空を探し求める
「権威」のビルディングの嘘を。
「国家」などというようなものはなく、
だれもただ一人ではいない。
飢餓は、市民にも警官にも
わけへだてなく訪れる。
ぼくらは愛しあわねばならない。さもなくば死だ。
夜のもと、護りもなくて、
ぼくらの世界は昏睡して横たわっている。
しかし、皮肉な光りの点が
至るところに散らばって、
「正しき者ら」がメッセージを交わすのを
照らしだす。
彼らのようにエロ
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