泥棒する青空/ただのみきや
 
はや手の触れようもない
恐れの残像でしかなかった黒い漆器の内側は朱に塗られ割られた
生卵には一本の赤い筋が脈を打ち手繰るようでも手繰られていて
追憶の混濁に笑うツグミの声に何度も生き返り砂埃の中
ブラスバンドの行進に孤独を剥ぎとられると一足飛びに老いていて
傾き倒れる景色の下敷きになる子どもたちはもはや子どもではなく
自他に都合のよい何者かであって仮名しか持たなかった
群がる羽虫が織りなす銀河を樹の洞から見上げていた
月は胎児となり群なす記号に蝕される 目を瞑り帆船となって
出奔する風と水のあわいに一人の女が傾きながら金色に溶けてゆく
星の時間だったろうか刹那の消失は 繋ぎ止め
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