詩の日めくり 二〇一九年三月一日─三十一日/田中宏輔
らしげな顔
林くんはその鯉を抱えて家に帰っていった
ガリ勉だと思ってた彼の意外なたくましさに
鯉の出現よりもずっと驚かされた
ふだん見えないことが
何かがあったときに見えるってことなのかな
これはいま考えたことで
当時はただもうびっくりしただけだけど
ああ
でももう
ぼくは中学生ではないし
彼ももう中学生ではないけれど
もしかしたら
あの三条白川の川の水は覚えているかもしれないね
二人の少年が川の水の上から顔をのぞかせて
ひとりの少年が驚きの叫び声を上げ
もうひとりの少年が自分の着ていた学生服の上着を脱いで
さっと自分のなかに飛び降
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