詩の日めくり 二〇一八年十三月一日─三十一日/田中宏輔
用から。(サンリオSF文庫・友枝康子訳、84ページ)
始まりは簡単だった、とジーンは思った。何事も始まりは簡単なもの
だ。表面は簡単だ。しかし深く入ると複雑なものだ。その表面をジーン
がごく当り前に受け入れることができる間は、生活は容易だった。何事
でも、誰にでも非常に感じやすい表面張力というものがあり、それを動
揺させることなくその近くをすれすれに通っていくのが安全だと彼女は
悟った。表面張力を破ることなく見ることは、人が見ることを選んだも
の、理解しうることなのだった。投影された自分だからだ。しかし一た
びその表面が攪乱されると、流れや横流、波の逆巻く水域
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