遠いひと/佐々宝砂
面に黒髪が広がり
少女は そのまま沈んでしまいたいと思う
けれど少女の肺は
酸素を欲しがって悲鳴をあげる
少女は空を見上げ 乱暴に目元を拭う
それから少女は川岸で じっと待っている
枯れて腐った水草のあいだから
濡れそぼった頭が浮き上がるのを
4
指環と数珠がいくつも沈んでいる
白く波立つ地下水道を
一艘の舟が下ってくる
少女が乗ると舟は静かに滑り出す
満ちた月の輝く洞窟で
子どもたちが祈りを捧げている
闇から闇へ滝が流れ落ちる
縄に括られた女が滝壺に身を投げる
洞
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