遠いひと/佐々宝砂
る画面の向こうに
透きとおった水があって
そこには遠いひとが泳いでいるのだった
ビデオを見ながら少女は日記を書く
(あのひとはきっと上にはいない
だからあたしも上にはいかない
あたしは下に沈んでゆくんだ)
凍てつく二月の夜
少女は冷たい水を浴び
素裸で窓辺に立ち
満天の星を見ようともせず
精いっぱい両手を広げて
地下に潜むものを抱こうとする
3
蝋燭を片手に少女は川を歩く
夜の水が少女の足を濡らし
腰を濡らし
胸を濡らす
寒さにこわばった少女の指から
蝋燭が落ち
暗い水面に
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