迷宮(祈り)/useless
 
、なにか根本的に不吉な。
二人とも後ずさり、元来た道を引き返す
引違戸が開く音。

来る。

彼女の手を取って走る
軋る床板の隙間に脚を取られかけ
浴衣ははだけているが
あれに追いつかれては。

階段を上り、また上り、走る
切れかけた廊下の裸電球が不快な音を出す
客間の襖は赤黒く光っている
降りる
虎の剥製がない
テレビには静止したアナウンサー、走査線だけが動く
背後の気配はますます濃くなり
角を曲がってもう一つの階段を上りきったところで、
彼女の手を握りそこね。

一人だけなら助かるかもしれない
何も聞かず別れたことにして、また一人で生きれば良い

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