迷宮(祈り)/useless
 
少し昔の話をしようか。

激務が続いた冬、ふと秘湯の宿を予約した
生理ど真ん中じゃない、三年付き合ってまだその程度気を使えないの、と彼女は激怒する
そろそろ終わりなのかなと
もともと一人でいるのが好きな僕としては。

江戸時代から続くという巨大な宿は古いというより荒んだ感じで
部屋の鍵を閉めるのに妙なコツがいるけれど
石油の匂いがする黒い湯は素晴らしく
ほかに客もいないなか、二人で。

そういえば、温泉入れるんだ
今更聞いた僕を直視して、検査薬に赤い線、陽性だったと彼女はささやくように。
凍えて
二人は無言で。

脱衣所の体重計は目盛りが欠けていて
スイッチの入
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