三途川/田中修子
【性的・暴力的な表現があります。ご理解の上、ご閲覧をお願いいたします】
わたしは、生を受けたということがおかしいのです。
母の名前は蝶、きらきら光る目をした人でした。
わたしはあかんぼうの頃から、自分の目で世界を見るよりも、母の目を一度覗き込んでから、外を見るのが好きでした。母の目のなかは無限のきらめきに満ちていて、まるで世界が変わったかのようになります。
わたしが見ている、そこらの土くれの道、平屋の少し古ぼけたような柱や屋根、くすんでいる障子の色が、とたんにはじめて歩く町の風景になるような気がするのです。そうして、晴れた空の輝くような青、井戸から汲んだ水、手入れが行き届か
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