化生の夏/ただのみきや
 
われ続けた
のけぞる魂 うす緑色の幼心が
苦い胞子に埋もれて行く音を食む音を
夢に見た
柔肌に弾んだサイコロが一斉に目を瞑る
なにもかも向こうどこまでも綿花
豊満な虚無の乳房に寄りかかる
化生はわたしの真中へ還る





去る夏の日

キジバトの声
朝露に濡れたまま
蜘蛛の糸をすべる
かすかな銀の光

日は燃えて
山葡萄は匂い
追い越して行く
翅の欠けたカラスアゲハ

汗をぬぐいもせず
こどもたちは笑い
しゃがんで草を抜く
老女の影は増す

情に乱れた雲
瞳の奥で音をたて
夕やみに埋もれてゆく
バス停のよく似た男



[次のページ]
戻る   Point(4)