化生の夏/ただのみきや
灰になる一行のために
音楽が野山を駆けて来る
朝
一本の針がもえていた
世界から言葉が消えて
砲弾もミサイルも静かに
花のようにゆっくり開くのなら
朝の食卓を挟んで
わたしたちは互いの姿を
どんな御馳走より楽しむことだろう
最期のくちびるの仕草
美しい沈黙の激震
愛には手段ばかりが多すぎた
誕生日
死んだ息子のためには何もできない
儀礼も儀式も転化にすぎず
緩和のための自慰行為
記憶と夢想を捏ねまわし
イタイイタイと泣きながら
無邪気にあざとく退行する
情緒絵巻の虫干し作業か
だれも救わない
だれも癒さない
忘却こそ恩寵
虚無こそ楽園
命日は憶えていない傷痕なんかない
だが誕生日は今も大口を開けたまま
忘れる時は死ぬ時だ
生きて癒されるくらいなら
刺し違えてでも死んでやる
そんな想いすら
もはや息子には関わりのないことだ
《2021年8月21日》
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