原と道(すぎゆくひと)/木立 悟
海の底の火のような
風を花を歩むとき
わたしの横をすぎるひとが
空を指しては歌いはじめる
異なる時間が沈む草地に
生まれておいで 生まれておいでと
解けのこる雪に呼びかけるひと
ただ見つめることで呼びかけるひと
ひとかけら ひとかけらを
鳥は持ち去る
少し離れたところに再び
同じ季節の巣が作られる
土のざらつき
光のひとつぶ
高い高い塔の影
変わりつづけるものの上を
鳥は幾度も行き来する
歌はとどき
草の原の一日
おだやかな隙間を流れ
曇を見つめるひとの瞳
手のひらのなかの土と火と影
わたしの拙いふところを揺ら
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