詩の日めくり 二〇一六年十三月一日─三十一日/田中宏輔
思い出した。
十年以上前かな。
葵公園で出会った青年が
右手の親指を見せてくれたんだけど
第一関節から先がなくなっていたのね。
「気持ち悪いでしょ?」
って言うから
「べつに。」
って返事した。
工場勤務で、事故ったらしい。
これまた十年ほども、むかし、竹田駅で
両方とも足のない男の子がいて
松葉杖を両手に持っていて
風にズボンのすそがひらひらしていて
なんだかとてもかわいらしくて
セクシーだった。
後ろ姿なんだけどね。
顔は見ていないんだけどね。
ぎゅって、したいなって思った。
だからってわけじゃないけど
指がない
[次のページ]
戻る 編 削 Point(15)