詩の日めくり 二〇一六年十二月一日─三十一日/田中宏輔
 
長い手を昆虫の翅のように伸ばす。
その風で、ぼくの皮膚がめくれる。
ぼくの皮膚がめくれて
過去のぼくの世界が現われる。
ぼくは賢いひとの代わりのひとになって
昆虫の翅のような手を
やわらかい、まるまるとした幼いぼくの頬に伸ばす。
幼いぼくの頬は引き裂かれて
冷たい土の上に
血まみれになって
横たわる。
ぼくは渡されたレシートの上に
ボールペンで数字を書いている。
思いつくつくままに
思いつくつくままに
数字が並べられる。
幼いぼくの頬でできたレシートが
釘のようなボールペンの先に引き裂かれる。
血まみれの頬をした幼いぼくは
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