雑居ビルの一室で/ただのみきや
 

数千億個あるいは数兆個の笑い袋で内も外も密になりながら
喪失から喪失へ非在から非在へと移動する厚みのない顔を
乱脈に乗じた情緒の鉤爪が白く斑に剥がすのに任せていた
女のもう片方の掌では柔らかな生まれたての動物を思わせる
罪責感と高揚感のハンマーが怯えながら目を開き
ロケットを先っぽから丸呑みにする女の恍惚に
スチールパンを打ち鳴らしながら浜辺へ駆け出していた
そこには過去から漂着した象牙のペニスケースがあって
極太マジックがひとりでに落書き同然の遺書を書き始めた
すると突然待ち伏せていた殺意が恋人のように服を脱ぎ
蝶の声帯で叫んでは甘く狂った夏の陰部を匂わせながら
雲のない
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