雑居ビルの一室で/ただのみきや
 
は背負った書棚の下敷きになって
添加物で薄められた血を流しながら替え歌をそらんじた
その数十センチ上には片足立ちで宙に浮かんだシバのような
両腕を天秤に広げた裸の女がいて片方の掌にはヒナゲシや
ヤグルマギクで隠蔽された荒地があった そこでは折れた櫂と
剥製の鰐と凶のおみくじがドラム缶で焼かれて黒煙を上げ
それを吸った幻の世代たちがかつて殺した半身を求めて
土着の霊性へ回帰すべく炉辺で炙った串刺しの幼児の舌と
水あめが似合う紙芝居の末路を縫い閉じて互いの目蓋を纏り合った
だがその内側ではゆっくりと終息しながらもまだ瞑り切らない
神の瞳の宇宙の彩光と陰影の爛熟した調和があって

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