ボロ布のようなマリア/ホロウ・シカエルボク
タンドだ、座れる椅子があったら腰を下ろして少しのんびりしよう、建物がかたちを留めているかわからないけれどー四十分程度でそれは姿を現した、驚いたことにほとんど記憶にあるままだった、ただ人がおらず、ひどく汚れているだけだ、一軒一軒を覗いて回った、どれもこれも懐かしい光景ばかりだった、本屋の本はすべて朽ちていた、これが時の流れだよとその店の神のようなドストエフスキー全集が言っている気がした、店主の居住スペースまで入るのは気が引けたので、ガソリンスタンドの小さな従業員控室を借りようと思い、そこまで歩いたときに、敷地の奥にあるタンクの裏側に、ぼんやりと突っ立ってこちらを見ている黒い影に気付いた、「あ」とお互
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