ボロ布のようなマリア/ホロウ・シカエルボク
 
誰も居ない、もう三十年は前のことだ、このあたりを歩いている奴らは誰もそんな道のことは知らないのだ、道とすら認識されてすらいない…俺は行ってみることにした、どの道何の用事もありはしないのだー俺が子供の頃までは、そこは生きていた、駄菓子屋と、金物屋と、喫茶店と、本屋ーそんな並びだったはずだ、ドストエフスキーの初版本がたくさん置いてある妙な本屋だった、表に平積みにしてある週刊誌以外は古本より汚いものばかりだった、俺はドストエフスキーの名をあそこで覚えたのだ、なんというか、気になる語感だったからね…そう、あとはガソリンスタンドが一軒あるだけだった、一台分の給油スペースしかない、田舎でよく見るタイプのスタン
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