羽衣呪術/ただのみきや
 
わる病のなかで黒蝶の禁忌の顔をデッサンして
脳内ノイズから立ち上がる帽子を目深に被った男の一つ目の
螺旋階段を降りて行く 若さと幼さがむせるほど匂う過去の情欲を
満たすことのできない不能者としての破壊衝動から書棚を押し倒し
自分すら忘れていた隠された標本ケースを砕いてしまう
全裸の死体が起き上がることに性的興奮を覚えながらも怖気惑い
包丁を持ったまま走り出す 沢山の空き缶を紐で括りつけられた
赤ん坊が巨大な悔恨の岩の下敷きになる瞬間から逃げようと
眼は血を吐くほど叫んでいた叫ぶ以外には逃げる術を知らなかった
マイナス一〇℃以下のキーを打つ指先は柘榴のように赤く古い革袋
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