詩の日めくり 二〇一六年八月一日─三十一日/田中宏輔
ので、ものを見たことがない。
無数のものに触れてきたわたしなのだが
そのわたしに手があるのかどうかもわからない。
無数の場所に立ち、無数の街を、丘を、森を、海を見下ろし
無数の場所を歩き、走り跳び回ったわたしだが
そのわたしに足があるのかどうかもわからない。
無数の言葉が結ばれ、解かれる時と場所であるわたしだが
そのわたしが存在するのかどうかもわからない。
そもそも、存在というものそのものが
言葉にしかすぎないかもしれないのだが。
その言葉が、なにか?
それも、わたしにはわからないのだが。
二〇一六年八月六日 「胎児」
数学で扱う「点
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