詩の日めくり 二〇一六年八月一日─三十一日/田中宏輔
この胎は
人間のものではないのかもしれない。
しかし、この胎の持ち主は
自分のことを人間だと思っているようだ。
夫というものに、妻と呼ばれ
多くの他人からは、夫人と呼ばれ
親からは、娘と呼ばれ
子たちからは、母と呼ばれているのであった。
しかし、それもみな、言葉だ。
言葉とはなにか?
わたしは、知らない。
この胎の持ち主もよく知らないようだ。
詩人というものらしいこの胎の持ち主は
しじゅう、言葉について考えている。
まるきり言葉だけで考えていると考えているときもあるし
言葉以外のもので考えがまとまるときも
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