詩の日めくり 二〇一六年六月一日─三十一日/田中宏輔
 
彼の喉をさまざまなものが流れていった。
腐乱した牛の死骸が目をくりくりと動かしながら流れていった。
巻紙がほぐれて口元のフィルターだけがくるくると旋回しながら流れていった。
パパやママも金魚のように背びれや尾びれを振りながら流れていった。
真空内臓の起こす幾つもの事件のうちに
いたいけな少女や少年が手を突っこんで
金属の歯に食いちぎられるというのがあった。
寝ているだけの死体モデルの仕事がいちばん楽だった。
寝ているだけでよかったのだから。
真空内臓をときどき裏返して
彼は瞑想にふけった。
瞑想中にさまざまなものが彼にくっついていった。
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