詩の日めくり 二〇一六年六月一日─三十一日/田中宏輔
 
質問に
よくある答え。
中途半端な賛美に
中途半端な悪評。
そんなものはいらないと真空内臓はのたまう。
彼は有名な死体だった。
彼が死体でないときはなかった。
彼は蚊に刺されるということがなかった。
なんなら、蚊を刺してやろうかと
ひとりほくそ笑みながら
宙を行き来する蚊を眺めることがあった。
しかし、彼は死んでいた。
ただ、死んでいた。
いつまでも死んでいたし
彼はいつでも死んでいたのだが
死んでいるのがうれしいわけではなかった。
しかたなしに死んでいたのだが
けっして、彼のせいではなかったのだ。


二〇一六年六月十九日
[次のページ]
戻る   Point(14)