詩の日めくり 二〇一六年六月一日─三十一日/田中宏輔
 
ンかつぎに
もらった花名刺を財布に入れておくのだという。
「なくさへんえ。」
とのこと。
ぼくもなくさず、いまも部屋に置いてある。
そのひとは宮川町出身で
まあ、お茶屋さんの町やね。
ぼくもそばの大黒町(字がこうだったか、記憶がないんだけれど)に
住んでたこともあったから、そう言った。
祇園に引っ越したのは、小学校の高学年のときだった。
ぼくの父親はもらい子だったのだけれど
もらわれた先の家が大黒町にあって
その家はせまい路地の奥のほうにあって
路地の入り口近くの魚屋が大家さんだったみたいで
長屋と呼ばれる、たくさんの世帯の貧乏人がいたところ
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