詩の日めくり 二〇一六年四月一日─三十一日/田中宏輔
 
音の聞き分けをすすめていた。
川のせせらぎと、土手に植わった潅木の茂みで泣く虫の声。
集中すると、どちらか一方だけになるのだが
やがて、双方の音が同じ大きさで、
片方だけ聞こえたときと同じ大きさで聞こえるようになる。
つぎにダブルヴィジョンの訓練であった。
ぼくは詩人に言われたように
夜のなかに夜をつくり、世界のなかに世界をつくった。
夜の公園のなかで
ベンチに坐りながら、一日前のその場所の情景を思い浮かべた。
詩人は目を開けながら、頭のなかにつくるのだと言っていた。
電車のなかで
一度、ダブルヴィジョンを見たことがある。
仕事が昼に終わった日の
[次のページ]
戻る   Point(15)