ほころんでもほどけない蕾のために/ただのみきや
を注ぐ
ゆっくりとだが速やかに沈む舟
ただ蜘蛛だけが月に網をかけて渡って行く
記号に罪はない
書き手と読み手が共主犯なのだ
だから何百年も情念と怨念をため込んだ
女が髪を海藻のように揺らしながら
この足を引いてくれるならそれでいい
暗い水底へ 人違いだと気付かぬままに
そうして書き溜めた原稿が風に捲かれて
遠く四散するのを眺めるように
何食わぬ顔の事故を装えばいい
床に砕けた絵皿で手を切るように
ふっと息を吹きかければ
前脚を上げて立ち止まり
八つの眼はわたしを探る
桜のようには咲きはしないサ
結ぼれた時間
のっぺらぼうを頭上で孵す
*
おぼろに
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