春提灯と咳緋鯉/田中修子
 

      いるのだから

 八重桜の濃いピンクの花びら踏みにじり公園の斜面をよじ登る。船にリボン投げる手みたく差し伸べてる枝に咲いているボンボリ、春提灯、幻は浮世で浮世は幻なんです、って、逃げたくってもサ。あのひとが眼鏡のそこから緋鯉をさみしく覗いている。転ばないようにと、手が。
 微笑むのが張り付いちゃった私のこれを剥がしたくッてはじめたんだ、はじまりはいつもこうで、おしまいもいつだってこうだった。
 売り場に鏡を置いた。そこにうつっている私の目はやっぱ血走ってるけど生気のないおニンギョさんです。
 --ッて、いつまで経ってもいつまで経っても呪っていたって、サ。
  にじ、虹
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