夕焼けの記憶/道草次郎
りに、ぼくの事を真っ直ぐに見据え、こう言った。
「人間にはな、どうする事もできない時もある」
その人には若かりし頃、ソ連兵による敗残兵への暴虐行為を恐れ満州から命かながら本土へ引き揚げてきた過去がある。
その時のぼくは、働いた事もないひきこもりで、だか、それが故に、来る日も来る日もその人と色々な話をする機会を得ていた。
その人とは、ぼくの祖父である。
祖父の死に水を取ったのは他でもない、世界を、社会を、そして生活を恐れていたあの日のぼくであった。
安置室にて、水を含ませたガーゼを祖父の唇に持っていった時、既に、あのおそろしい破壊の映像があちこで流れていた。
祖父の葬儀
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