眠りの谷へ/道草次郎
為退所をするのよ、あなたが来た時にはもうAは席を立った後だった。
空席の前のテーブル、綺麗に折り畳まれたナプキンの隣にそっと置かれたあの手紙。あれがAよ。
あなたはなんで皐月に来なかったの?
わたしたちは一番偏差値の低い高校でもう一度やり直す筈だった。でもあなたは来なかった。
わたし、あれからあなたのことなんかすっかり忘れてしまっていた。
だから今、あなたの無意識にこうして呼ばれても困るんだけど。
あなたはわたしのことが好きだったのでしょう。
わたしはどうだったかしら、忘れてしまった。でもあなたは幼くて、皐月で逢えてもたぶんあなたのことをそんな風には見れなかったと思う。
あ
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