眠りの谷へ/道草次郎
あなたは何にも変わってないのね、口元をみれば分かる。
ねえ、やめて。召喚しておいて、なにそれ?
草の汁を吸うウンカっていう虫、それから蓼の花のこと。ねえ、紅い蓼の花があかまんまと呼ばれてたの、あなたはもう覚えていないの?
皐月は、皐月は、性行為の場所じゃないのよ、あの時も、これからだってずっとね。
ねえ、あなたは燕の塒(ねぐら)が茅のなかにあるのを知っていた?Aはサッカー一筋だった。わたしとAは熱海で遊んだりした。
あなたは皐月に来なかった、それだけのことよ。Aとのことにそれは関係ない。自惚れないで、これは夢なのよ。
さあ、もう一度眠りの谷に墜ちてしまいなさい。
さようなら、夢の人。
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