眠りの谷へ/道草次郎
 

あなたは何にも変わってないのね、口元をみれば分かる。

ねえ、やめて。召喚しておいて、なにそれ?

草の汁を吸うウンカっていう虫、それから蓼の花のこと。ねえ、紅い蓼の花があかまんまと呼ばれてたの、あなたはもう覚えていないの?

皐月は、皐月は、性行為の場所じゃないのよ、あの時も、これからだってずっとね。

ねえ、あなたは燕の塒(ねぐら)が茅のなかにあるのを知っていた?Aはサッカー一筋だった。わたしとAは熱海で遊んだりした。

あなたは皐月に来なかった、それだけのことよ。Aとのことにそれは関係ない。自惚れないで、これは夢なのよ。

さあ、もう一度眠りの谷に墜ちてしまいなさい。
さようなら、夢の人。

戻る   Point(2)