詩の日めくり 二〇一五年八月一日─三十一日/田中宏輔
いた。ベンという名前をつけることにした。そこで、かわりに、ベンのことを脳と呼ぶことにした。ベンが脳に似ているというわけではない。脳がベンに似ているというわけでもない。むしろ舞台のうえでブチブチと潰れるトマトに似ているだろう。いや、垂直に立てたハサミにか。脳の行動半径は、頭蓋骨のなかの猫の行動半径よりも狭い。いちばん遠くにまで行くことができるのはハサミだけれど、ハサミは垂直に立てておけば動くことができない。時間的に遠くまで動くことのできるものはトマトだ。膝と膝のあいだに、たくさんのトマトを置いて、うえから両手で思い切り殴りつける。脳はミャ〜ンとは鳴かない。右手の中指のさきで脳のひだに触れる。やわらか
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