詩の日めくり 二〇一五年七月一日─三十一日/田中宏輔
ままた、一枚の葉が
山間(やまあい)から吹きおろす風に連れられて
くるくると、くるくると、螺旋に舞いながら
湖面に映った自身の姿に吸い寄せられて。
それは、小舟と、ぼくの死体のあいだに舞い落ちた。
水のなかで揺れる水草のように
手をあげてゆらゆらと揺れる
湖底に沈んだたくさんのひとびと。
そこには父がいた、母がいた、祖母がいた、
生まれそこなったえび足の妹がいた。
風が吹くまえに
ぼくの死体は、ぼくの似姿に引き寄せられて
ゆっくりと沈んでいった。
湖面に張りついた一枚の葉が
──静かに舞いはじめた。
蒼白な月が、一隻の小舟を、じっと見つめていた──
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