詩の日めくり 二〇一五年七月一日─三十一日/田中宏輔
 
は嘆こうとするのか 心よ
(リルケ『嘆き』富士川英郎訳)


二〇一五年七月二十五日 「青年。」


 沖縄から上京してきたばかりというその青年は、サングラスをかけて坐っていた。父は、彼にそれを外すように言った。青年はテーブルのうえにそれを置いた。父は、青年の目を見た。沖縄からいっしょに出て来たという連れの男が、父の顔を見つめた。ぼくはお茶を運んだ。父は、青年にサングラスをかけ直すように言い、採用はできないと告げて、二人を帰らせた。
 ぼくは、父のことを、なんて残酷な人間なんだろうと思った。鬼のような人間だと思った。そのときのぼくには、そう思えた。後年になって思い返してみると、父の
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