詩の日めくり 二〇一五年七月一日─三十一日/田中宏輔
二〇一五年七月二十三日 「打網。」
まだ上がってこない。
網裾が、岩の角か、なにかに引っかかっているのだろう。
父の息は長い、あきれるほどに長い。
ぼくは、父の姿が現われるのを待ちながら
バケツのなかからゴリをとって
小枝の先を目に突き入れてやった。
父が獲った魚だ。
父の頭が川面から突き出た。
と思ったら、また潜った。
岩の尖りか、やっかいな針金にでも引っかかっているのだろう。
何度も顔を上げては、父はふたたび水のなかに潜っていった。
生きている魚はきれいだった。
ぼくはいい子だったから
魚獲りが大嫌いだなんて、一度も言わなかった。
ゴリはまだ生きて
[次のページ]
戻る 編 削 Point(17)