詩の日めくり 二〇一五年七月一日─三十一日/田中宏輔
ぼくは笑って、あなたの顔を見上げたでしょうか。
そのとき、あなたは、どんな顔をしてみせてくれたのでしょうか。
二十歳になったとき、父の許しが出て、実母に会うことができ、幼児のときに建仁寺の境内で会った話を聞かされました。
幼いころ、祖母に連れられて、岡崎の動物園に行ったとき、鹿園で、一つしかない角を振り上げて、他の鹿と戦っている鹿を目にして、なにかとても重たいものが、胸のなかに吊り下がるような思いをしたことがありました。いま考えますと、そのときの鹿の姿を自分の境遇と、自分の境遇がそうであるとは知らないまでも、こころの奥底では感じ取って、重ねていたのではないかと思われます。
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