春の会話/田中修子
にはならなかった、
が、春のやわらかな陽を受けて少しずつ眩しくなり、夏に実のために体を大きく広げて光と交わった、秋が忍びやかな足音でやってきたときは、少し騙された気がしたけれど、
地に落ちて、眠りにつくのだと思った。はじめての地面、眠りと眠りの合間。あの生き物がやってきて、私をひらりとつまんで抱いて、涙が体に落ちて、少し、目をさます。さみしい、
「ね。この木からなら、あの子が飛び込んだ瞬間が見えていたのかな。誰かあの子を見守っていたのかな。ひとりでさみしくなかったかな。どうして気づくことができなかったのかな。なんで一緒にいけなかったかな、ひとりでは、私、勇気が出なくって、なんて、」
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