春の会話/田中修子
よわい、と生き物は呟いて、私をおろして去っていた。
あの生き物はホント馬鹿だ。生きているほうが強いに決まっている。
それから眠ってて、虫に食われたり、人に踏まれたり、やがて腐って、でも甘い、甘い私の体臭、散らばって、ばらばら……に、ねむ、ねむい、これで、還っていくということ、土に。あの生き物は、内臓がバラバラになったほうは、還れたかなぁ、
おいで。
(あなたの名前を教えて)
僕は春の雨。君を土にもっと溶かして、あらゆる木々に入れよう。
(あの生き物をしっている?)
僕たちは何でも知っている。
(あの生き物が、私がかつて抱いた枯葉で、いまは咲き誇るのを待っている蕾であることをしるようにして頂戴。そのように、思い出がこの星を巡ることを、こっそりとささやいてあげて頂戴)
つよい雨が朝から夕暮れにかけて降りしきっていた。土の濃い匂いが、雨に打たれてこの部屋まで漂ってきた。
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