映画『赤ひげ』と父の思い出/道草次郎
 
くにとっての真実であり続ける筈だ。

そんな十七歳の自分が受けた『赤ひげ』の衝撃。それも、しかし今ではとおく霧の彼方にあるようにも思われる。だが、それと同時にその経験は、燻り続ける燠として胸のおくに常に存在しているようにも感じられる。

いずれにしろ年月は過ぎ過ぎ去ってしまった。もしまだ、この心に、あの時の感動が燠として燻っているなら、自分の両手はそれを包んでやれるだろうか。ふとそんな事を今は考えてしまう。





そうだ、最後にちょっとしたエピソードを。ある日父の遺品整理をしていると、手帳から一枚の手書きのメモが落ちた。拾い上げるとそこにはこんな事が書かれていた。


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