城/墨晶
えながら、日々の出来事、それらに際して考えたことなどを蜘蛛に話した。
蜘蛛は、八つの瞳で男の心中にあるゆらゆら蠢くものをつぶさに観察しながら黙って男の話を聞いていた。
男が疲れ果て帰った或る晩、見上げる天井の巣に蜘蛛がいない。真下の読みかけの本や未読の手紙の山の上に、蜘蛛は棄てられた折りたたみ傘のような姿で死んでいた。男は蜘蛛の死骸を拾い上げ、手のひらにのせた。すると、蜘蛛の死骸の脚は幾つも幾つも生え増え始め、薊(あざみ)の丸い冠毛(わたげ)のような姿になった。
男は何年も開けていない硝子戸、雨戸を開けると、夜空の中心には歪んだ銀の釦のような月が輝いていた。男が戸の隙間
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