詩の日めくり 二〇一五年三月一日─三十一日/田中宏輔
 
なかったら
ぼくは、きみのことを
ほんの一部分、知っただけで
ぼくたちは、はじまり、終わっていただろう。

コーヒーカップをテーブルに置こうとする
ぼくの手が
陶製のコーヒーカップのように
かたまって動かなかった。

真っ赤な金魚の尾びれが
腕に触れたら
魔法が解けたように
ぼくは腕を動かすことができた。

目のまえを泳いでいる
きみの笑顔と、笑い声が
ぼくの目をとらえた。


二〇一五年三月三十日 「きみのキッスで」


たったひとつのキッスで
世界が変わることなんてことがあるのだろうか。

たったひとつのまなざ
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