中る/ただのみきや
 

     自ら母性は鎮魂する


心臓から逃げ出した
魚は出窓に並んだ酒瓶の角を曲った路地の奥で
占い師に化けていた
ショール剥ぐと今度は孔雀に化ける
針のように細い経典で次々と海を堕胎さながら
瞬きの度にシンバルが
       男の中で響いていた


異国の新聞紙に包まった
 翼の未熟な女の左目は
 古代硝子で出来ていた
そいつが本物か偽物か
 浮浪者たちは言い合った
時には強い酒で火炎瓶になったやつが
 外縁の闇に灯ったが
墓石の都市は火傷もせず朝には煤を残すだけ
誰も昨日の夢については語らなかった
語れなかった誰もが忘れてしまい
 自分ではない
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