詩の日めくり 二〇一四年十二月一日─三十一日/田中宏輔
 
ーちゃん」
一番下の弟のほうは、「中島のおばあちゃん」
と呼んでいた。
なつかしい、音の響きだ。
どちらのお名前も、思い出すのは、数十年ぶりかもしれない。
一番下の弟を背に負いながら、トイレをしていて
ひっくり返って、弟が泣き叫んで
その声のすごさに家中で大騒ぎになって
一日でクビになったお手伝いのおばあさんの顔は覚えているのだけど
そのおばあさんって、一日だけのひとだったのだけれど、顔は覚えていて
名前は覚えていないのね。
人間の記憶って、不思議ぃ〜。

100円オババは、道行くひとに
「100円、いただけませんか?」
と言って歩いていた
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