破断された時間/道草次郎
。ただ、修羅としては、若干の齟齬。
君が電話のむこうでモスキートになる。小さく、尖って、血を吸う、昆虫に。ぼくは刺されないだろう。分かってる。それが君の戦法だ。針があるのに、さしも刺されもしない。ただ、あるはあるという復讐だ。ぼくは閉口してしまう。それだけよわいのだ。ぼくはいう。俺は弱いもののなかで一番よわい。君はいう。なんでつよいと言ってくれないの?と。おい、そこが君のずるいところだ。そこはふつう、一番だなんておおげさ、あなたはとにかく自分を大きくて見積もりすぎ。それこそがプライドね、と言うものだろう。でも君は言わない。まるで単純な女みたいに、しかし女が単純であるなんて天地がひっくり返った
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