幕の内弁当/吉兆夢
やって来るのだそうです。
佐藤さんは地面に片耳を当てるようにして這いつくばり、猪の痕跡を丁寧に検分します。まだ若い。目を閉じます。カビ臭い、土の湿った、鼻につく獣の糞の、剥き身になった竹の、青い。
鼻腔の奥で混色されていく山の匂いがまっしろに飽和して、しずかにふりつもっていきます。いのししのあしあとはいつのまにかちいさなくつあとにかわっていました。ひだりてがあたたかい。やわらかいこどものて。みぎては。さっきまで、みぎても。てんてんとつづくあしあとがもりのまえでたちどまり、ふりかえった、ちいさなかげの、とおめでもわかるねぐせのかみにこなゆきのとけいはふりつんでいく。しんしんとつめたく、こわばるみ
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