幕の内弁当/吉兆夢
 
るみぎて。もともとだ。もともとつめたいてだったはず、くちもとによせてあたたまらないそれでよびかけようとなんどもなんどもよびかけようとして なまえを、 なにを、 どう 。

くぐもった耳の奥を雪解け水が流れていきます。頬から鼻の下にかけて肌がひんやりとします。少しだけ水が耳から溢れてしまったようです。
目を瞬かせた佐藤さんは愛用の鍬を支えにゆっくり身体を起こしました。明るくなってきた空を見渡し深呼吸を一つ。春の、新芽の匂いがします。今日は暖かくなりそうです。

別の採り場を見に行った佐藤さんを追いかけて山を登る途中、剥き出しになった筍の身に細かな落ち葉くずが掛けられているのを何度か見かけま
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